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東京地方裁判所 平成8年(ワ)25118号 判決

原告 バイオシダーンベルコーポレーション有限会社

右代表者代表取締役 鈴木美智子

原告 鈴木美智子

原告 鈴木克

原告 鈴木理恵

右二名法定代理人親権者 鈴木美智子

右四名訴訟代理人弁護士 田中清治

被告 株式会社東京都民銀行

右代表者代表取締役 中島潔

右訴訟代理人弁護士 上野隆司

同 高山満

同 廣渡鉄

同 浅野謙一

主文

一  被告は、原告バイオシダーンベルコーポレーション有限会社に対し三一〇万円、原告鈴木美智子に対し一一一万六〇〇九円及びこれらに対する平成六年一〇月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを九分し、その一を被告の負担とし、その余は原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告バイオシダーンベルコーポレーション有限会社(以下「原告会社」という。)に対し一二九七万六九〇四円、原告鈴木美智子(以下「原告美智子」という。)に対し四〇三六万二〇三六円、原告鈴木克(以下「原告克」という。)に対し七二三万四八三五円、原告鈴木理恵(以下「原告理恵」という。)に対し七九三万四八三五円及びこれらに対する平成六年一〇月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告銀座支店(以下「被告支店」という。)に預け入れられていた原告らの定期預金が無断で解約されるなどした際、被告支店の担当者が原告らの意思を直接確認することなく右解約等に応じたため原告らが損害を被ったとして、原告らが被告に対し使用者責任に基づく損害賠償を求めた事案である。

一  前提となる事実(証拠を掲記しない部分は当事者間に争いがない。)

1  当事者

原告会社は、昭和五九年二月二日、屋台営業のための食材の供給等を目的とする有限会社覇王食品として鈴木學により設立された有限会社であるが、昭和六一年一一月二二日に鈴木學が死亡したことから、昭和六二年八月八日、鈴木學の妻である原告美智子がその代表取締役に就任し、その後、平成四年五月三一日、商号をバイオシダーンベルコーポレーション有限会社に変更するとともに、目的を食堂と喫茶の経営、発酵食品の販売等に変更し、現在に至っている。

原告克及び原告理恵は、鈴木學と原告美智子の子である。

被告は、預金又は定期積金の受入れ、資金の貸付等を目的とする株式会社であり、東京都中央区銀座に銀座支店を設置している。

池ヶ谷真理子(旧姓佐藤。以下「佐藤」という。)は、本件当時、永田昌雄税務会計事務所(以下「永田会計事務所」という。)に事務員として勤務していた者である。なお、佐藤は、平成五年一月三一日、原告会社の監査役に就任している。

2  預金口座の開設等(特に記載するものを除き、被告支店において開設されたものである。)

(一) 原告会社名義

(1)  普通預金口座

鈴木學は、少なくとも昭和六一年七月三一日以前に、原告会社名義の普通預金口座(番号〇二五七七七二。以下「原告会社普通預金口座一」という。)を開設した(甲一A)。

また、原告会社名義の普通預金口座(番号〇二八九四七八。以下「原告会社普通預金口座二」という。)は、昭和六二年二月一三日に開設された(甲一B)。

(2)  当座預金口座

佐藤は、平成四年八月二六日、原告会社名義の当座預金口座(以下「原告会社当座預金口座」という。)を開設するとともに(甲一D)、支払端末機「とみんくん」を永田会計事務所に設置した。

なお、佐藤は、同日、同月一九日に後記原告美智子普通預金口座二から払い戻した一〇〇〇万円のうち五〇〇万円を原告会社名義の当座預金口座に入金し、同年九月一〇日に四五万円、同月二二日に五〇万〇七二一円、同年一〇月二日に合計五〇万〇七二一円を右当座預金口座からそれぞれ払い戻した(甲一D、二B。以下、同年九月一〇日以降三回の払戻しを「本件当座取引」という。)。

(二) 原告美智子名義

鈴木學は、少なくとも昭和六一年三月二四日以前に、原告美智子名義の番号〇二二五三八〇の普通預金口座(以下「原告美智子普通預金口座一」という。)を開設した(甲二A)。

原告美智子名義の番号一〇〇一五三二の普通預金口座(以下「原告美智子普通預金口座二」という。)は、平成元年八月一日に開設された。

(三) 原告克名義

原告克名義の普通預金口座(番号〇二七三八〇八。以下「原告克普通預金口座」という。)は、昭和六二年八月一三日に開設された。

三和銀行芝浦支店の原告克名義の普通預金口座(番号六一四四一。以下「原告克三和普通預金口座」という。)は、昭和六三年一月八日に開設された(甲三C)。

(四) 原告理恵名義

原告理恵名義の普通預金口座(番号〇二九三七一〇。以下「原告理恵普通預金口座」という。)は、昭和六二年九月一〇日に開設された。

三和銀行芝浦支店の原告理恵名義の普通預金口座(番号六一四五八。以下「原告理恵三和普通預金口座」という。)は、昭和六三年一月八日に開設された。

(五) その他の名義

鈴木學は、少なくとも昭和六〇年一〇月二五日以前に、佐藤正名義の普通預金口座(番号〇二四一七九一。以下「佐藤普通預金口座」という。)を開設した。

鈴木學は、少なくとも昭和六〇年八月二一日以前に、古屋一名義の普通預金口座(番号〇二三一六二〇。以下「古屋普通預金口座」という。)を開設した。

3  定期預金の解約

以下この項で述べる預金の取引は、特に記載するものを除き、被告支店における取引である。なお、原告らが本件において損害賠償の対象としている預金の解約等の取引を「本件取引1」等として表示した。

(一) 原告会社名義

(1)  昭和六三年四月三〇日、原告会社名義の定期預金額面一〇〇〇万円が解約され(以下「本件取引1」という。)、右定期預金の元利金合計一〇〇〇万〇〇五八円が原告会社普通預金口座一に振替入金された。

そして、同年五月二日、原告会社普通預金口座一から六七五万五九四九円が払い戻され、うち振込手数料八〇〇円を除く六七五万五一四九円が原告克三和普通預金口座に振込送金され、その後、同月六日から同年一〇月三一日までの間、原告克三和普通預金口座から七回にわたり合計六七五万六二八六円が払い戻された。

(2)  平成三年八月一日、原告会社名義の定期預金三口合計一六〇万円が解約され(以下「本件取引2」という。)、右定期預金三口の元利金合計一六一万〇四五〇円が原告会社普通預金口座一に振替入金された。

さらに、同日、原告会社普通預金口座一から一二二万〇六一八円が払い戻された。

(二) 原告美智子名義

(1)  平成元年二月二七日、原告美智子名義の定期預金一〇一四万三五九三円が解約され(以下「本件取引3」という。)、右定期預金の元利金合計一〇一四万八一六〇円が支払われた。

同日、右解約金のうち六九九万四二八三円が原告美智子普通預金口座一に入金され(原告は、残金三一五万三八七七円は使途不明金であるとする。)、その後、同年三月一五日、右普通預金口座から二三〇万円が払い戻された。

(2)  平成元年一〇月六日、原告美智子名義の定期預金二口合計八〇〇万円が解約され(以下「本件取引4」という。)、右八〇〇万円は原告美智子普通預金口座二に振替入金された。

同年一一月二日、原告美智子普通預金口座二から、二〇〇万円が原告会社普通預金口座一に、四〇〇万円が原告会社普通預金口座二にそれぞれ振替入金され、原告会社普通預金口座二から二一三万六六四七円(原告は、うち一二四万三〇〇〇円は使途不明金であるとする。)が払い戻された。

さらに、同月二九日、原告会社普通預金口座一から一〇〇万円(原告は、全額が使途不明金であるとする。)、原告会社普通預金口座二から二一八万五七三〇円(原告は、うち一三〇万円が使途不明金であるとする。)がそれぞれ払い戻された。

(3)  平成四年一〇月五日、原告美智子名義の定期預金一〇〇〇万円が解約され(以下「本件取引5」という。)、右定期預金の元利金合計一〇〇二万四二六七円が佐藤に支払われた。

同日、右解約金が原告会社当座預金口座に入金され、同月六日、右当座預金口座から二〇〇万円が原告美智子普通預金口座一に振替入金された。

また、同月二〇日、原告美智子名義の定期預金二口合計一〇〇〇万円が解約され(以下「本件取引6」という。)、右定期預金の元利金合計一〇〇〇万五三三二円が支払われた。

同日、右解約金と他の金員とを合わせた計二五〇〇万八〇八三円が原告会社当座預金口座に入金され、同月二二日、右当座預金口座から三〇〇万円が原告美智子普通預金口座一に振替入金された。

同年一一月六日、原告美智子普通預金口座一から七〇〇万円が原告美智子普通預金口座二に振替入金され、同月九日から平成五年五月七日までの間、原告美智子普通預金口座二から八回にわたり合計七〇二万八三六一円が払い戻された。

さらに、平成四年一〇月八日から平成五年三月三日までの間、原告会社当座預金口座から一七回にわたり合計六〇七万九六三一円が他の銀行口座に振込送金された。

(三) 原告克名義

平成四年七月七日、原告克名義の定期積金元金一四〇万六八〇〇円が解約され(以下「本件取引7」という。)、右定期積金の元利金合計一四三万二三六三円が原告克普通預金口座に振替入金された。

同月一六日から平成五年三月五日までの間、原告克普通預金口座から四回にわたり合計一一〇万円が払い戻された。

(四) 原告理恵名義

平成四年七月七日、原告理恵名義の定期積金元金一四四万七八〇〇円及び積立定期元金四四万円が解約され(以下「本件取引8」という。)、右定期積金の元利金合計一五〇万〇六九四円及び積立定期の元利金合計四五万七〇二八円が原告理恵普通預金口座に振替入金された。

同月一六日から平成五年三月五日までの間、原告理恵普通預金口座から四回にわたり合計一八〇万円が払い戻された。

(五) 佐藤正名義

平成元年六月五日、佐藤正名義の定期預金六一八万九三〇一円が解約され(以下「本件取引9」という。)、右定期預金の元利金合計六二八万一二七六円が支払われ、同日、右解約金のうち六〇〇万円が被告支店に佐藤正名義のMMC定期預金として預け入れられた(原告は、残金二八万一二七六円は使途不明金であるとする。)。

平成二年七月六日、右MMC定期預金が解約されて、その元利金合計六二〇万六一七三円が支払われ、うち六〇〇万円が被告支店に佐藤正名義の三〇〇万円の定期預金二口として預け入れられた(原告は、残金二〇万六一七三円は使途不明金であるとする。)。

平成三年四月一二日、右定期預金二口が解約され、その元利金合計六二二万九九八六円が支払われ、うち五〇〇万円が被告支店に佐藤正名義の五〇万円定期預金一〇口として預け入れられた(原告は、残金一二二万九九八六円は使途不明金であるとする。)。

同年六月二〇日から平成四年七月二二日までの間、右定期預金一〇口が解約され、その元利金合計五一二万八一三一円が支払われた。

(六) 古谷一名義

平成元年六月五日、古谷一名義の定期預金七九一万九四〇四円が解約され(以下「本件取引10」という。)、右定期預金の元利金合計八〇三万七四八一円が支払われた。

同日、右解約金のうち七九〇万円が被告支店に古谷一名義の定期預金として預け入れられた(原告は、残金一三万七四八一円は使途不明金であるとする。)。

平成二年四月二四日、右定期預金が解約され、その元利金合計八〇五万五四三一円が古谷普通預金口座に振替入金された。

同月二五日から平成三年三月七日までの間、古谷普通預金口座から七回にわたり合計八〇二万四六四八円が払い戻された。

(七) 太田春美名義

平成元年六月五日、太田春美名義の定期預金五七四万二一五七円が解約され(以下「本件取引11」という。)、右定期預金の元利金合計五七四万五一六八円が支払われた。

同日、右解約金のうち五〇〇万円が被告支店に太田春美名義の定期預金として預け入れられた(原告は、残金七四万五一六八円は使途不明金であるとする。)。

平成二年七月六日、右定期預金が解約され、その元利金合計五一七万一八一一円が支払われ、うち五〇〇万円が被告支店に太田春美名義の三〇〇万円と二〇〇万円の合計二口の定期預金として預け入れられた(原告は、残金一七万一八一一円は使途不明金であるとする。)。

同月一三日、右定期預金二口が解約され、その元利金合計五〇〇万一二五二円が支払われた。

(八) 玉寄良子名義

平成元年八月二日、玉寄良子名義の定期預金二口合計六〇万円が解約され(以下「本件取引12」という。)、右定期預金二口の元利金合計六〇万七七八八円が支払われた。

4  被告からの借入れ

平成元年九月二九日に一〇〇万円、平成二年三月二日に三〇〇万円がそれぞれ被告から原告会社名義で預金担保貸付がされた(以下「本件取引13」という。)

平成二年七月六日、原告会社名義の定期積金五四七万二〇〇〇円が解約されて、右定期積金の元利金合計五六四万七〇九一円(甲三四の3)が支払われ、右解約金のうち四〇〇万円をもって前記預金担保貸付による借入金合計四〇〇万円が弁済された。

二  原告らの主張

1  定期預金の無断解約等

本件取引1ないし13及び本件当座取引(以下、これらを「本件各取引」と総称する。)は、佐藤が原告らに無断で行ったものである。

なお、原告らは、永田会計事務所に対して、原告会社の決算、相続税申告手続及び財務コンサルタント事務を委託していたが、佐藤に対して金銭の雑務処理を一任していたということはない。

2  被告の責任

被告の従業員は、本件各取引を行うに当たり、原告ら本人の署名を得たり、原告ら本人に連絡するなどして、原告ら本人の意思を確認すべき義務があったにもかかわらず、これを怠り、右1のとおり佐藤の無断解約及び無断借入れに応じた過失により、原告らに損害を与えたのであるから、被告は、その使用者として、民法七一五条に基づき、原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある。

3  原告らの損害

本件各取引により原告らが被った損害は、以下のとおりである。

(一)原告会社関係

原告会社は、前記一3(一)(1) の定期預金一〇〇〇万円の解約(本件取引1)により、うち六七五万六二八六円が佐藤により費消され、右同額の損害を被った。

また、原告会社は、前記一3(一)(2) の定期預金三口合計一六〇万円の解約(本件取引2)により、うち一二二万〇六一八円が佐藤により費消され、右同額の損害を被った。

さらに、原告会社は、前記一4の合計四〇〇万円の預金担保貸付(本件取引13)により、右同額が佐藤により費消され、右同額の損害を被った。

原告会社について被告の不法行為と相当因果関係にある弁護士費用は一〇〇万円である。

以上、原告会社関係の損害は合計一二九七万六九〇四円である。

(二) 原告美智子関係

原告美智子は、前記一3(二)(1) の定期預金一〇一四万三五九二円の解約(本件取引3)により、うち合計五四五万三八七七円が佐藤により費消され、右同額の損害を被った。

原告美智子は、前記一3(二)(2) の定期預金二口合計八〇〇万円の解約(本件取引4)により、うち三五四万三〇〇〇円が佐藤により費消され、右同額の損害を被った。

原告美智子は、前記一3(二)(3) の定期預金三口合計二〇〇〇万円の解約(本件取引5及び6)により、うち合計一三六〇万七九九二円が佐藤により費消され、右同額の損害を被った。

原告美智子は、前記一3(五)ないし(八)の架空名義の定期預金合計二〇四五万四七五六円を各二分の一の割合で鈴木學から法定相続したが、右定期預金の解約(本件取引9ないし12)により、うち合計二一五三万九三四一円が佐藤により費消され、その二分の一に相当する一〇七六万九六七一円の損害を被った。

原告美智子は、前記一2(一)(2) の当座預金口座の開設等(本件当座取引)により合計一四五万一四四二円の損害を被った。

原告美智子について被告の不法行為と相当因果関係にある弁護士費用は三〇〇万円である。

以上、原告美智子関係の損害は合計三七八二万五九八二円である。

(三) 原告克関係

原告克は、前記一3(三)の定期積金一四〇万六八〇〇円の解約(本件取引7)により、うち一一〇万円が佐藤により費消され、右同額の損害を被った。

原告克は、前記一3(五)ないし(八)の架空名義の定期預金合計二〇四五万四七五六円を各四分の一の割合で鈴木學から法定相続したが、右定期預金の解約(本件取引9ないし12)により、うち合計二一五三万九三四一円が佐藤により費消され、その四分の一に相当する五三八万四八三五円の損害を被った。

原告克について被告の不法行為と相当因果関係にある弁護士費用は七五万円である。

以上、原告克関係の損害は合計七二三万四八三五円である。

(四) 原告理恵関係

原告理恵は、前記一3(四)の定期積金一四四万七八〇〇円及び積立定期四四万円の解約(本件取引8)により、うち一八〇万円が佐藤により費消され、右同額の損害を被った。

原告理恵は、前記一3(五)ないし(八)の架空名義の定期預金合計二〇四五万四七五六円を各四分の一の割合で鈴木學から法定相続したが、右定期預金の解約(本件取引9ないし12)により、うち合計二一五三万九三四一円が佐藤により費消され、その四分の一に相当する五三八万四八三五円の損害を被った。

原告理恵について被告の不法行為と相当因果関係にある弁護士費用は七五万円である。

以上、原告理恵関係の損害は合計七九三万四八三五円である。

4  消滅時効の起算点

原告美智子は、平成五年秋ころ、公認会計士の事務所に原告らの会計を復元する作業を依頼し、平成六年秋ころ、ようやく一億二〇〇〇万円余りの使途不明金があることが判明した。そして、原告美智子が、右使途不明金の発生に被告が関与しているとの認識を持つに至ったのは、さらにその後ということになる。

したがって、本件における原告らの損害賠償請求権については、未だ消滅時効は完成していない。

三  被告の主張

1  定期預金の無断解約等

(一) 原告美智子による解約等

前記一2ないし4の本件各取引は、原告美智子が所持保管していた通帳又は証書並びに印鑑を用い、原告美智子により又は原告美智子の了解を得て佐藤を通じて行われたのであるから、右解約等は原告らに無断で行われたものではなく、原告らの請求には理由がない。

(二) 代理権の授与

原告らは、次のような事情からすれば、本件各取引に先立ち、佐藤に対し、右解約等の権限を授与していたものというべきである。

すなわち、鈴木學は、昭和五九年一月、会計事務所の紹介を被告支店の担当者に依頼し、永田会計事務所の紹介を受け、同年二月に原告会社が設立された際、永田会計事務所に原告会社の経理事務の処理を委託し、以後永田会計事務所の事務員である佐藤が原告会社の経理事務の処理を行っていた。原告らは、証書等及び届出印を佐藤に預けており、佐藤は、原告ら名義の定期預金を解約する際に、原告ら名義の定期預金証書等及び届出印を所持していた。さらに、原告らの定期預金証書等及び届出印について、原告らからの事故届等は一切被告支店に提出されておらず、また、佐藤は昭和六三年二月ころから平成五年五月ころまでの間、長期間にわたって多数回の解約等を行っているが、その間被告担当者と原告らは何度も面談しているにもかかわらず、原告らからは何らの異議もなかった。原告美智子は、平成元年夏ころ、当時の被告支店の担当者に対し、原告らの金銭の雑務処理を佐藤に一任しているとして、同人を紹介した。原告美智子は、平成元年一〇月、個人用のマンション購入のための住宅ローンについて相談するために佐藤を伴って被告支店を訪れ、被告支店との交渉の場に佐藤も同席していた。また、佐藤は、平成五年一月三一日、原告会社の監査役に就任している。

そして、佐藤は、原告らのためにすることを表示して前記解約等を行ったのであるから、右解約等は原告らに無断で行われたものではなく、原告らの請求には理由がない。

(三) 定期預金約款に基づく免責

原告らと被告は、原告らの定期預金の預け入れに際し、被告所定の定期預金規定に従うことを合意した。

被告の自由金利型定期預金規定についてはその六項、積立定期預金規定についてはその七項など、商品によって項目番号に違いはあるが、各定期預金規定には「印鑑照合」の表題の下に「この証書、諸届その他の書類に使用された印影を届出の印鑑と相当の注意をもって照合し、相違ないものと認めて取扱いましたうえは、それらの書類につき偽造、変造その他の事故があっても、そのために生じた損害については、当行は責任を負いません」との規定がある。

被告は、前記第二の一3の原告らの定期預金の各払戻請求書に押印された印影と届出印鑑との同一性を確認した上、右定期預金の解約に応じたのであるから、被告は右定期預金約款により免責される。

2  消滅時効

仮に、佐藤が、何ら権限がないのに原告美智子に無断で原告らの定期預金の解約等を行ったとの前提に立つとすれば、右行為が違法なものであることは明らかである。また、原告美智子は、存在するものと認識していた定期預金の解約等が佐藤によってされていれば原告らは満期日に得べかりし利息を失うことになるのであるから、右解約等によって原告らに損害が発生したということを知っていたということができる。

そして、原告美智子は、平成五年九月ころ以降、被告支店に対し、原告らの預金の入出金の状況等に関する資料及び情報の提供を求め、同年一一月二六日には、原告らの預金の入出金の状況等について、谷口佐知子(以下「谷口」という。)と共に同人が原告美智子に代わって被告から回答を得る旨の委任状を持って被告支店を訪ねているが、原告美智子の右行為は、単なる推定や危惧を超え、定期預金等の金銭の移動を確認するためになされたものであり、佐藤が行った不法行為の裏付けを取るために出た行為であるというべきである。

したがって、原告会社の代表取締役でもあり、原告克及び原告理恵の法定代理人でもある原告美智子は、遅くとも平成五年一一月二六日までに佐藤による定期預金の解約等について認識したものということができ、同日から三年が経過した平成八年一一月二六日には、原告らの被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権につき消滅時効が完成したといえる。

そして、被告は、平成九年七月九日の本件口頭弁論期日において、原告らに対し、右消滅時効を援用する旨の意思表示をしたから、右損害賠償請求権は時効により消滅した。

3  過失相殺

仮に、原告らの損害賠償請求権が認められるとしても、原告らは自己の通帳等を第三者に預け、その管理を他人任せにして放置していたというのであるから、本件は、原告らが自らの故意にも比すべき重過失により招いたものというべく、賠償額の算定においてはこの点を考慮すべきである。

四  主たる争点

1  原告らの定期預金の解約等(本件取引1ないし13及び本件当座取引)は、原告らに無断で行われたものか否か。

2  定期預金の解約等に応じたことにつき被告に過失があったか否か。

3  原告らが被った損害の額はいくらか。また、被告の過失相殺の主張が認められるか否か。

4  原告らの損害賠償請求権につき消滅時効が成立するか否か。

第三当裁判所の判断

一  事実経過

前記前提となる事実、証拠(甲二A、C、一〇の1、一七の1、2、二六の1、五六、七九、乙五の1、2、二五、二六、五九、六〇の1、2、七四、証人池ケ谷、原告美智子本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  鈴木學と被告支店との関係について

(一) 昭和五八年初めころ、被告支店の野口聖之(以下「野口」という。)が、鈴木學の自宅に売上金の集金のため訪問するようになり、その後、次第に鈴木學と被告支店との取引が緊密化するようになった(弁論の全趣旨)。

(二) 昭和五九年一月、野口は、鈴木學から法人を設立したいとの相談を受け、会計事務所を紹介して欲しいと依頼された。そこで、野口は、被告支店の取引先であった永田会計事務所を鈴木學に紹介した。そして、同年二月、原告会社が設立された。

(三) そのころ、被告支店の豊稔治(以下「豊」という。)は、野口から、事務の引継ぎの際に、原告会社の税務申告、毎月の収支を示す売上状況表及び借入状況表の作成に関する決算事務処理が永田会計事務所に委託されている旨の説明を受けた。また、原告会社が永田会計事務所に会計事務等を委託した当初、原告会社において領収書の仕訳が全然できていなかったため、野口ないし豊が領収書を勘定毎に仕訳したということもあった(乙二五)。

(四) そして、原告会社の経理事務については、鈴木學が会計事務に通じていなかったこともあり、日々の取引の仕訳、会計帳簿への記帳、決算書類の作成、帳簿等の保管等を含む経理事務全般にわたり永田会計事務所に委託されるに至っていた。

(五) その後鈴木學が大腸がんを患ったため、原告美智子は、昭和六一年一〇月、鈴木學の依頼を受けて被告支店に現金を届けた際に、初めて豊に会った。当時、原告美智子は専業主婦であり、原告会社の経営や被告支店にある預金の管理等には関与していなかった(甲五六、弁論の全趣旨)。

(五) 鈴木學は、同年一一月二二日、大腸がんのため死亡した(甲五六、原告美智子本人)。

2  原告美智子と被告支店及び永田会計事務所との関係について

(一) 原告美智子は、昭和六一年一二月ころ、豊から被告支店に来店するよう促され、同月一七日ころ、被告支店に赴いた(乙二五)。また、原告美智子は、同月二二日ころ、豊と共に永田会計事務所に赴き、永田昌雄のほか、同事務所で勤務していた佐藤らと会い、原告会社の会計決算事務及び原告らの相続税申告事務を依頼した。

(二) 原告美智子は、鈴木學の死亡に至るまで原告会社の経営には全く関与しておらず、また、屋台の元締め的な存在であった同人の死亡により従業員間でトラブルが生じたりしていたため、昭和六二年一月ころ、今後の原告会社の経営について豊に相談し、豊とともに株式会社とみん経営カルチャーセンターに赴いたところ、同センターで宮原功弁護士の紹介を受けた(甲二五、五六)。

(三) 原告会社は、同年二月七日、同弁護士の仲介を得て、その従業員ら四名に対し、従前の営業を引き継ぐ趣旨で、屋台をリースすること等の契約を、期間を平成四年一月末日までの五年間と定めて締結し、原告会社は一か月当たり八〇万円のリース料の支払を受けるようになった(甲二五、五六)が、契約期間の最後のころにはその入金が途絶えた(証人池ヶ谷)。

3  生命保険金の入金及び相続税の支払等の経過

(一) 昭和六二年一月六日に日本生命から鈴木學の生命保険金九七二一万四二五〇円が、同月一四日にアメリカンファミリーから同人の生命保険金二八五〇万二〇〇〇円が、それぞれ原告美智子普通預金口座一に入金された(争いのない事実)。

原告美智子は、同月一六日、日本生命からの勧誘を受けて四八九九万円の養老保険に加入することとし、右金員を原告美智子普通預金口座一から払い戻して日本生命に振込送金するとともに、豊からの勧誘を受けて、七五〇〇万円を原告美智子普通預金口座一から払い戻して、原告美智子名義の定期預金七口(合計七五〇〇万円)として預け入れた(甲二A、C、一〇の1、五六、乙二五)。なお、右七五〇〇万円の払戻請求書(甲一〇の1)には、原告美智子による署名がされており、また、同人の銀行取引印が押捺されている。

(二) 同年四月一日、被告の原告らの担当が豊から武市隆弘(以下「武市」という。)に引き継がれた。その際、武市は、豊から原告らの定期預金の期日管理等を行うこと、原告会社の会計事務は永田会計事務所に任されていること、鈴木學が作成した架空名義の預金が存在することなどについて説明を受けた(乙二六)。

(三) 原告美智子は、同年五月一四日、被告に対して、被告支店の貸金庫の鍵を喪失した旨の届出をし(乙六〇の1)、貸金庫契約を解約する旨の申入れを行った(乙六〇の2)。

(四) 原告美智子らの最初の相続税の申告が同月一九日に行われた(甲二六の1)が、武市は、そのころ、原告美智子から同人名義の三〇〇〇万円の定期預金を右相続税納付の原資とすることにつき了承を得たので、定期預金払戻請求書(乙五の1)を持って原告美智子宅を訪問し、原告美智子に右払戻請求書に署名、捺印してもらった(甲五六、乙二五)。右定期預金の解約による元利金合計三〇一一万四八五三円のうち、八五〇万八九〇〇円は原告克の、八四七万八九〇〇円は原告理恵の相続税としてそれぞれ納付され、二三六万三〇〇〇円は永田会計事務所に対する報酬として支払われ、一〇七六万四〇五三円は原告美智子名義の定期預金として被告支店に預け入れられた(甲二六の1、五六、乙五の1、2)。

(五) なお、以上及び後記4の事実経過に照らせば、鈴木學の死後昭和六二年九月ころまでの間は、原告美智子が被告支店の豊及び武市の助言を得ながら原告らの預金の管理等を行っていたものと認められる。

4  原告らと佐藤との関係について

(一) 佐藤は、昭和六二年一〇月ころ、武市に対し、原告美智子宅を訪問する際に同行したい旨申し出て、武市とともに原告美智子宅を訪問した。そして、佐藤は、右のころから、原告美智子から、永田会計事務所の従業員として、原告会社の税務申告のみならず、原告会社の入出金伝票の作成やその預金の出入金等を委ねられるようになり、さらに昭和六三年五月ころからは、原告美智子ら個人の各預金の出入金も行うようになった(証人池ヶ谷)。もっとも、これらの各預金の届出印や通帳、証書等は原告美智子が保管していたことから、佐藤は、その管理に当たっては、月末に入出金伝票を原告美智子宅に持参し、原告美智子に押印してもらったり、一時的に印鑑を預かるなどの方法を採っていた(乙五九、証人池ヶ谷)。

以上のような関係から、佐藤は、平成元年五月ころには、被告銀座支店における原告会社及びその余の原告らの預金取引の実情を調査し、その結果を踏まえて、架空名義の定期預金については、それを解約して原告理恵及び同克名義でMMC定期預金に整理してはどうかとの話を原告美智子に対してしたこともあった(甲一七の1、2)。

(二) 原告会社は、平成四年五月三一日、商号を有限会社覇王食品からバイオシダーンベルコーポレーション有限会社に、目的を食堂と喫茶の経営、発酵食品の販売等に変更し、本店所在地を移転するとともに、高部静江を取締役に選任し、平成四年六月ころから本格的な営業を開始したが、原告美智子は、高部修及び高部静江に原告会社の実質的な経営を委ねた(甲七九、弁論の全趣旨)。

(三) これに伴い、原告美智子は、佐藤に対し、原告会社名義の預金の届出印や通帳、証書等を預けるとともに、原告美智子ら個人の各預金についても同様にして、それらの預金の入出金事務等を行うことを佐藤に対し依頼した(乙五九、証人池ヶ谷、弁論の全趣旨)。

(四) なお、預金通帳、定期預金証書、銀行取引印等の保管状況についての原告らの主張は必ずしも明瞭ではないが、その平成一二年七月五日付けの準備書面によれば、昭和六一年一二月二五日ころ預金証書や印鑑等を一括して永田会計事務所に預けた、昭和六二年三月ころ架空名義の定期預金証書が一旦原告美智子に返還されたが、平成元年二月ころ再び佐藤に交付し、永田会計事務所が保管していた、なお、印鑑は平成元年春ころ原告美智子の下に戻ってきた、との趣旨の主張がされている。そして、原告美智子は、その本人尋問において、右の点について、最初に一括して永田会計事務所に預けた、昭和六二年春ころ原告美智子及び原告会社名義の普通預金通帳が返還された、印鑑は返還してもらわなかった、原告美智子の印鑑は平成元年に返還してもらった等様々な供述をしており、その供述は不明確、不明瞭な内容となっている。

こうしたことに、後記二4(三)で認定、説示するところ、乙五九、証人池ヶ谷の証言をも併せ考慮すると、右の点に関する原告美智子の供述、原告らの主張は、たやすく採用できない面があるというべく、右(一)及び(三)のとおり認定するのが相当である。

二  無断取引の有無

1  違法性判断の方法について

(一) そこで、原告らが主張する本件各取引が無断でされた違法なものかどうかを検討すべきところ、その前提となる違法性判断の手法につき、原告らは、個々の取引について違法性を判断するのではなく、取引全体を一つの行為としてとらえてこれを判断すべきである旨主張するので、まず、この点について検討する。

(二) 原告らは、右のとおりに主張する根拠として、原告らと被告との間の預金等取引が継続的なものとして行われていることを掲げている。

しかしながら、本件各取引が原告らに無断で行われたか否かは個々の取引ごとに判断すべきものであって、仮にその一部が無断で行われたと認められるとしても、そのことをもって他の取引についてもすべて当然に無断で行われた違法なものと評価することはできないというべきである。この点、原告らも、前記第二の二1及び2のとおり、本件各取引が佐藤による無断取引であるとして、その際に被告が尽くすべき注意義務に違反した違法を主張しているのであって、かかる主張は右の理を前提にしているものとみられる。

(三) したがって、原告らの右(一)の主張は採用できない。

(四) そこで、原告らが無断で行われたと主張する本件各取引について、以下個別に検討する。

2  昭和六三年四月三〇日の原告会社名義定期預金の解約(本件取引1)について

(一) 原告らは、昭和六三年四月三〇日に原告会社名義の定期預金一〇〇〇万円(以下「本件定期預金1」という。)が解約されてその元利金合計一〇〇〇万〇〇五八円が原告会社普通預金口座一に振替入金された件について、原告美智子は関与しておらず、佐藤が原告美智子に無断で行ったものである旨主張している。他方、被告は、本件定期預金1が解約されてその元利金が原告会社普通預金口座一に振替入金された経緯について、同日、武市の得意先を引き継いだ中西征夫が原告美智子宅を訪問した際、原告美智子から右手続をするよう依頼され、本件定期預金1の証書等を預かった旨主張している。

(二) そこで検討するに、本件定期預金1の証書の裏面(乙二八の2)には、「有限会社覇王食品代表取締役鈴木美智子」と刻された記名印及び「有限会社覇王食品代表取締役」と刻された印鑑が押捺されている。

ところで、本件定期預金1は、昭和六三年三月二九日に中途解約された原告会社名義の定期預金一四〇〇万円のうち一〇〇〇万円をもって預け入れられたものである(甲一C、乙四五の1ないし3、四六)ところ、右一四〇〇万円の定期預金の証書の表面(乙四五の3)には、永田昌雄によって「有限会社覇王食品代表取締役鈴木美智子」と記入され(証人池ヶ谷)、右定期預金の証書の裏面(乙四五の2)には、本件定期預金1の証書の裏面に押捺されているのと同一の記名印及び代表者印が押捺されている。また、右記名印及び代表者印は、同年二月二九日付けのがん定期保険被保険者同意書兼告知書(乙七五の13)にも押捺されている。そして、本件取引1により解約された定期預金の元利金は、前記前提となる事実3(一)記載のとおり、原告会社普通預金口座一に振替入金された後、同年五月二日、原告会社普通預金口座一から六七五万五九四九円が払い戻され、うち振込手数料八〇〇円を除く六七五万五一四九円が原告克三和普通預金口座に振込送金され、その後、同月六日から同年一〇月三一日までの間、原告克三和普通預金口座から七回にわたり合計六七五万六二八六円が払い戻されたというのである。

このような原告会社の記名印及び代表者印の使用状況、本件定期預金1の解約後の資金の流れに、乙五九号証(佐藤作成の陳述書。特に不明金解明書の昭和六三年度関係の記載)をも総合すると、右解約は佐藤がしたものと推認される。

(三) そこで、以下、佐藤が原告会社名義の本件定期預金1の解約について原告美智子から代理権を授与されていたか否かについて検討するに、前記一4で説示したとおり、原告美智子は、昭和六二年一〇月ころから、永田会計事務所の従業員である佐藤に対し、原告会社の経理事務のみならず、原告会社の預金口座の入出金事務をも委ねるようになっていたこと、そして更には、原告美智子は、本件取引1の直後である昭和六三年五月ころからは、右に加えて、原告ら個人名義預金の管理事務をも右佐藤に委ねるに至ったという状況に照らせば、右定期預金の解約は、右佐藤が原告美智子から委ねられていた原告会社の預金口座の管理の一環として行われたものと認めるのが相当である。

この点については、原告らが、永田昌雄及び佐藤を被告とする別件訴訟において、「故鈴木學の死亡後、原告美智子は、東京都民銀行銀座支店の銀行員から昭和六一年一二月頃、被告永田を紹介されて、同被告の従業員佐藤に対し、会社の預金通帳及び印鑑を預けて、原告会社の経理事務を被告永田会計事務所に委託したのであるから、被告永田は、本来の税理士業務のほか金銭の出納を含む経理全般の事務を受託していたと解さなければならない。」と主張している(乙七四)ところからも裏付けられるというべきである。

したがって、この点に関する原告会社の損害賠償請求には理由がない。

3  平成三年八月一日の原告会社名義定期預金の解約(本件取引2)について

(一) 平成三年八月一日に原告会社名義の定期預金三口合計一六〇万円が解約され、右定期預金三口の元利金合計一六一万〇四五〇円が原告会社普通預金口座一に振替入金されたこと、右解約及び振替入金の手続を行ったのが佐藤であることについては当事者間に争いがない。

(二) そして、原告美智子は、前記2(三)で説示したとおり、佐藤に対し、原告会社の経理事務のみならず、原告会社の預金口座の管理、すなわち入出金事務をも委ねていたというのである。そうすると、右定期預金の解約は、その一環として行われたものというべく、原告会社のこの点に関する損害賠償請求は理由がない。

4  平成元年二月二七日の原告美智子名義定期預金の解約(本件取引3)について

(一) 原告らは、原告美智子は平成元年二月二七日には被告支店に行っておらず、原告美智子名義の定期預金一〇一四万三五九三円(以下「本件定期預金3」という。)の解約に関与していない、それは佐藤が原告美智子に無断で行ったものである旨主張している。これに対し、被告は、本件定期預金3が解約されてその元利金のうち六九九万四二八三円が原告美智子普通預金口座一に振替入金された経緯について、同日、原告美智子と佐藤が被告支店を訪問し、生活費として必要ということで、佐藤が解約等の手続をした旨主張している。

(二) そこで検討するに、証人武市は、同日午後二時ころ、原告美智子が黒の革のハーフコート、佐藤が赤のワンピースを着て被告支店に突然来訪し、生活費が足りないということで本件定期預金3の解約を求められたこと、右解約に応じたところ、定期預金の流出を阻止できなかったということで支店内で問題となった旨供述し、同人の陳述書(乙二六)にも同趣旨の記載が存するところである。

(三) さらに、証拠(甲二C、乙一一の1)及び以下に説示するところを総合すれば、原告美智子名義の定期預金額面一〇〇〇万円の証書が平成元年二月一六日にいったん被告支店に預けられ、額面一〇一四万三五九三円の本件定期預金3の証書(乙三〇の3、4)に書き換えられた後、同月二〇日に原告美智子に交付されたことが認められる。

すなわち、(1)  右額面一〇〇〇万円の定期預金は、昭和六三年六月一〇日に原告美智子普通預金口座一から払い戻された一〇〇〇万円を預け入れたものであるところ、同年一二月一〇日に満期となったことから、利息が元本に組み入れられて自動継続されたものの、証書が書き換えられていなかったために、平成元年二月になって右書換えの手続が行われたものである(甲二A、C)。このことは、取次票(乙一一の1)中に満期日を示す「12/10」及び書換え前の額面を示す「10,000,000」との記載があることからも裏付けられる。そして、(2)  右取次票の「お客様の受領印」欄に押捺されている「美智子」と刻された印鑑は、原告美智子の登録印であり(乙六〇の3)、また、昭和六二年七月一日に改印手続をとった新たな銀行取引印でもある(乙八)。そして、この印鑑は、右の他、原告美智子が作成したことが明らかな昭和六二年二月二七日付けの「リース等に関する契約書」(甲二五)及び同年六月付けの遺産分割協議書(甲二八)にも押捺されている。こうしたことに、日付、番号等から右取次票と同一機会に作成されたものと認められる他の取次票(乙一一の3)には、右印鑑が押捺されているとともに原告美智子が自署していることをも考え併せると、右印鑑は原告美智子が自ら管理していたものというべきである。加えて、(3)  原告らの相続税申告手続は永田会計事務所が行っていたのであるが、昭和六二年一〇月三日の修正申告に伴う原告美智子普通預金口座一からの一一六六万八〇〇〇円の払戻しの際には、仮伝票による手続が行われていることからすれば、右口座の取引印のみならず、普通預金通帳も、右当時は、佐藤ではなく原告美智子が管理していたものと推認されるところである。

以上説示したところを総合考慮すると、本件定期預金3の解約に際し使用された証書及び右印鑑は、右解約当時原告美智子自身が管理していたものと推認される。

(四) 以上を総合すると、原告美智子は本件定期預金3の解約に関与しておらず、佐藤が原告美智子に無断で行ったものであるとの原告らの主張は採用できないというべく、かえって、原告美智子と佐藤は、平成元年二月二七日に被告支店を訪問し、佐藤において、原告美智子の意思に基づき前記定期預金の解約等の手続を行ったものと認められる。

よって、この点に関する原告美智子の損害賠償請求は理由がない。

5  平成元年一〇月六日の原告美智子名義定期預金の解約(本件取引4)について

(一) 原告らは、原告美智子名義の定期預金二口合計八〇〇万円(以下「本件定期預金4」という。)の解約には関与しておらず、佐藤が原告美智子に無断で行ったものである旨主張している。これに対し、被告は、平成元年一〇月六日に本件定期預金4が解約されて原告美智子普通預金口座一に振替入金された経緯について、同日、原告美智子と佐藤が被告支店を訪問し、鈴木學の墓、引っ越し及び家具購入等のため必要ということで、佐藤が解約等の手続をした旨主張している。

(二) ところで、証拠(乙一六、一七、三一の1ないし3、六六の1、3、5、証人生方)によれば、以下の事実が認められる。

平成元年一〇月六日、原告美智子名義の定期預金三口(本件定期預金4の額面三〇〇万円及び五〇〇万円の預金のほか、額面二一六六万〇〇〇九円のもの)が解約された。その解約手続は、右定期預金三口のいずれについても、払戻請求書(乙三一の1ないし3)には、得意先係として原告らの担当となった被告支店の生方俊一が署名し、定期預金証書の裏面(乙六六の1、3、5)には佐藤が署名し、その何れにも「美智子」と刻された印鑑が押捺されている。右三口の定期預金については、それぞれ一一時一〇分、二〇分及び一六分に払戻しの手続が行われている(乙三一の1ないし3)。なお、原告美智子は、その本人尋問において、右三口のうち二一六六万〇〇〇九円の定期預金の解約についてはマンション購入の際の頭金として自ら解約したものである旨供述しているところである。

また、本件定期預金4の一部を構成する額面五〇〇万円の預金については、平成元年六月五日に原告美智子普通預金口座一から払い戻された五〇〇万円が預け入れられたものであり、右払戻の際の払戻請求書(乙一六)及び右預入の際の入金票(乙一七)には、原告美智子自身が署名していることが認められる。

さらに、証拠(証人生方、同池ヶ谷、原告美智子本人)によれば、原告美智子は、本件定期預金4の解約の際、佐藤と共に被告支店を訪問していたことが認められる。

(三) 右(二)の事情に、前記4で説示したところを総合すると、原告美智子と佐藤は、平成元年一〇月六日に被告支店を訪問し、本件定期預金4(額面は二口合計八〇〇万円)についても、原告美智子の意思に基づいて解約等の手続が行われたものというべきである。

そうすると、原告美智子の損害賠償請求は理由がない。

6  平成四年一〇月五日及び同月二〇日の原告美智子名義定期預金の解約(本件取引5及び6)について

(一) 平成四年一〇月五日に原告美智子名義の定期預金一〇〇〇万円が解約され、その元利金合計一〇〇二万四二六七円が原告会社当座預金口座に入金されたこと、同月二〇日に原告美智子名義の定期預金二口合計一〇〇〇万円が解約され、その元利金合計一〇〇〇万五三三二円が原告会社当座預金口座に入金されたこと、右解約はいずれも佐藤が手続をしたことについてはいずれも当事者間に争いがない。

この点につき、原告らは、原告美智子は右定期預金の解約に関与しておらず、佐藤が原告美智子に無断で行ったものである旨主張している。

(二) しかしながら、前記一4で認定したとおり、原告美智子は、平成四年五月三一日、原告会社の商号、目的、本店所在地等を変更し、その実質的な経営を高部修及び高部静江に委ねるとともに、佐藤に対し、原告会社名義の預金の届出印や通帳、証書等を預け、また、原告美智子ら個人の各預金についても同様にして、それらの預金の入出金事務等を行うことを佐藤に対し依頼したところである。

こうしたところにかんがみると、同年一〇月に行われた右定期預金の解約は、原告美智子が佐藤に与えていた定期預金の出入金に関する権限に基づいてされたものというべきである。

よって、原告美智子の損害賠償請求は理由がない。

7  平成四年七月七日の原告克及び原告理恵名義定期積金等の解約(本件取引7及び8)について

(一) 平成四年七月七日に原告克名義の定期積金元金一四〇万六八〇〇円が解約され、その元利金合計一四三万二三六三円が原告克普通預金口座に振替入金されたこと、同日に原告理恵名義の定期積金元金一四四万七八〇〇円及び積立定期元金四四万円が解約され、右定期積金の元利金合計一五〇万〇六九四円及び積立定期の元利金合計四五万七〇二八円が原告理恵普通預金口座に振替入金されたこと、右解約等の手続を佐藤が行ったことについては、当事者間に争いがない。

右につき、原告らは、原告美智子は右定期積金の解約等に関与しておらず、佐藤が無断で行ったものである旨主張する。

(二) しかしながら、この点もまた前記一4で認定したとおり、原告らは、平成四年六月以降は、その定期預金通帳、証書及び印鑑等を全て佐藤に預け、その出入金管理を委せていたのであるから、同年七月に行われた右定期積金の解約等は、原告美智子が佐藤に与えていた定期預金の出入金に関する権限に基づいてされたものというべきである。

よって、原告克及び原告理恵の損害賠償請求は理由がない。

8  平成元年六月五日の佐藤正、古屋一及び太田春美名義定期預金の解約(本件取引9ないし11)について

(一) 原告らは、右各定期預金の証書を平成元年二月ころ佐藤に預けたところ、それらが原告に無断で中途解約された旨主張している。これに対し、被告は、平成元年六月五日に佐藤正名義の定期預金六一八万九三〇一円、古屋一名義の定期預金七九一万九四〇四円及び太田春美名義の定期預金五七四万二一五七円が解約され、それぞれ元利金合計六二八万一二七六円、八〇三万七四八一円及び五七四万五一六八円が支払われた経緯について、同月初めころ、原告美智子が被告支店に来訪し、架空名義の前記定期預金三口をスーパーMMCに預け換える手続を依頼したことから、右依頼に応じて預け換えを行ったものである旨主張している。

(二) そこで検討するに、本件取引9ないし11がされたと同じ平成元年六月五日付けで、原告美智子普通預金口座一から五〇〇万円が払い戻され、原告美智子名義の定期預金五〇〇万円として預け入れられているところ、その払戻請求書(乙一六)及び定期預金入金票(乙一七)の署名はいずれも原告美智子が自らしたものと認められるので、右取引は原告美智子の意思に基づくものであることがうかがわれる。

もっとも、右普通預金口座からの払戻し及び定期預金への預入れ手続が行われたのは、それぞれ一三時一八分及び一三時一九分であるところ、本件取引9ないし11の前記架空名義の定期預金三口について預け換えの手続が行われたのは一八時四九分から一九時〇五分の間であることが認められ、両者が同一の機会にされたとは認め難い(乙一六、一七、三四の1、4、三五の1、5、三六の1、4)ので、右原告美智子名義の普通預金の解約及び定期預金への入金が原告美智子の意思に基づいて行われたことのみをもってしては、前記架空名義の定期預金三口の解約も原告美智子の意思に基づいて行われたとすることはできない。

しかしながら、前記一4(一)で認定した事実及び証拠(甲一七の1、2、五六、原告美智子本人、証人池ヶ谷)によれば、佐藤は、平成元年五月ころ、前記架空名義の定期預金を解約して整理し、原告理恵及び同克名義にてMMC定期預金にすることを原告美智子に説明し、現にその一部(佐藤正名義)についてはMMC定期預金がされていることが認められる。また、原告美智子が、前記架空名義の定期預金証書三通を、平成元年二月、佐藤に交付していることについては、原告らにおいても認めているところである。

以上認定、説示したところを総合考慮すれば、佐藤は、右各定期預金を解約した後の事情はともかく、これらの定期預金を解約すること自体については、原告美智子の同意を得ていたものというべく、そうだとすると、右解約は、同原告の意思に基づき行われたということができる。

したがって、この点に関する原告らの損害賠償請求は理由がない。

9  平成元年八月二日の玉寄良子名義定期預金の解約(本件取引12)について

(一) 原告らは、玉寄良子名義の定期預金二口合計六〇万円(以下「本件定期預金12」という。)の解約手続に関与していない旨主張している。これに対し、被告は、平成元年八月二日に本件定期預金12が解約され、その元利金合計六〇万七七八八円が支払われた経緯について、同日、原告美智子と佐藤が被告支店を訪問し、本件定期預金12の解約手続が行われた旨主張している。

(二) そこで検討するに、本件定期預金12が解約された日にはそれ以外の定期預金の払戻しもされているが、それらの払戻請求書(乙二〇の1、2、5、7、8、9、11、12、16、19)及び各証書の裏面(乙二〇の3、6、17、20)には原告美智子の署名があり、このことからすれば、玉寄良子名義以外の定期預金については原告美智子が払戻手続を行ったことが認められる。これに対して、玉寄良子名義の定期預金の払戻請求書(乙二一の1、4)及び各証書の裏面(乙二一の2、5)には佐藤が署名しているが、その処理時間を見ると、一二時〇九分から一〇分であり、玉寄良子名義以外の定期預金の払戻手続の処理がされた一二時二六分から一四時三〇分の直前であることが認められる。

さらに、玉寄良子名義の定期預金証書の裏面(乙二一の2、5)には、「玉寄」と刻された印鑑が押捺されているところ、玉寄良子が原告美智子の母親であることからすると、原告美智子において、右印鑑を永田会計事務所ないし佐藤に預けていたとは考え難いところである。

(三) また、証人生方は、右(一)の被告の主張に副った証言をしている。加えて、証人池ヶ谷は、右玉寄良子名義の定期預金の払戻請求書及びその証書の裏面に自らが署名した際の状況について、原告美智子も同席していたが、原告美智子の筆跡ではまずいので署名することになったとの趣旨の証言をしているところである。

(四) 以上認定、説示したところを総合考慮すれば、原告美智子と佐藤は、平成元年八月二日に被告支店を訪問し、前記定期預金について原告美智子の意思に基づき解約等の手続が行われたものというべきであり、この点に関する原告らの損害賠償請求は理由がない。

10  平成元年九月二九日及び平成二年三月二日の預金担保貸付(本件取引13)について

(一) 原告会社名義で、平成元年九月二九日に一〇〇万円、平成二年三月二日に三〇〇万円がそれぞれ被告から預金担保貸付されたこと、右手続を佐藤が行ったことについては当事者間に争いがない。

被告は、この点について、原告会社の了解の下、佐藤が具体的な手続を行ったものである旨主張する。

(二) しかしながら、これまで検討してきたとおり、原告会社名義の預金の管理は佐藤に委ねられていたと認めるのが相当であるけれども、預金を担保に借入れをすることまで委ねられていたものと考えることはできない。

そして、この点に関し、原告会社が佐藤に対し預金を担保に被告から借入れをする権限を授与したことを証する的確な証拠は存在しない。かえって、平成四年九月二五日付けの原告会社の被告からの一五〇〇万円の借入れに際しては、原告美智子が自ら関与して銀行取引約定書(乙六八の1)及び金銭消費貸借契約証書(乙七〇の1)等を差し入れる等していることにかんがみると、原告会社が佐藤に対し、被告からの借入れについてまで権限を与えていたとは認められないというべきである。

(三) したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。

11  平成四年八月二六日の当座預金口座の開設(本件当座取引)について

(一) 原告会社名義で、平成四年八月二六日に当座預金口座が開設されたこと、右手続を佐藤が行ったことについては当事者間に争いがない。

被告は、この点について、佐藤は右当座預金口座の開設について原告美智子に説明し、了解を得ていた旨主張する。

(二) しかしながら、右10で説示したところと同様に、佐藤に与えられていた原告会社の預金についての管理権限が当座預金口座の開設までをも含むものと認めることはできない。

そして、本件において、原告会社が当座預金口座を開設することまで授権したことを証する的確な証拠はうかがわれない。この点について、原告美智子から了解を得ていた旨の証人池ヶ谷の供述及びそれとほぼ同趣旨の証人青木の供述が存在するが、右10で認定した同年九月二五日付けの一五〇〇万円の消費貸借契約に際してとられた手順、手続等に照らして考えると、たやすく採用できない。

(三) したがって、この点に関する被告の主張は採用することができない。

12  小括

以上の次第であるから、本件取引13及び本件当座取引については、佐藤において原告会社に無断で取引をしたものと認めるのが相当であるが、その余の取引に関する原告の主張は採用できない。

三  被告の過失

そこで次に、本件取引13及び本件当座取引について、被告に注意義務違反が認められるかについて検討する。

1  預金担保貸付(本件取引13)について

銀行が預金担保貸付を行うに際しては、預金の解約と実質的に同じ結果になるのみならず、預金の利息より借入金の利息の方が高額になることが多く、預金の解約よりも預金者に不利益になる可能性があることを勘案すると、本件のように、現実に借入れの申込みをした者と預金者が異なることが明らかである場合には、被告としては、借入れの理由を聴取するなど正当な使者ないし代理人であることを調査、確認すべき義務を負うものというべきである。

しかしながら、本件においては、被告支店が預金担保貸付を行うに当たって、右調査、確認をしたと認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告としては、佐藤が代理権を有しているかについて名義人である原告会社に確認すべきであったのに、これを怠った過失があるものというべきである。

2  当座預金口座開設(本件当座取引)について

銀行が当座預金口座の開設に応じるに当たって、本件のように預金口座の名義人と口座開設の手続のために被告を訪れた者とが別人である場合には、当座預金口座の開設により手形の不渡りの危険等が生じることをも勘案すると、代理権限の有無及びその範囲ないし本人たる口座名義人の意思を十分に確認する必要があるというべきである。そしてこのことは、佐藤が被告の紹介によって原告会社の経理事務を担当するようになったり、また、その預金の入出金事務についても行うようになっていったという事情が認められる本件においても、なお妥当するものというべきである。

そして、証拠(証人青木、原告美智子本人)によれば、被告支店が本件当座取引における口座開設時において、原告会社の意思を十分に確認していなかったことが認められる。そして、本件においては、右確認が困難であったことをうかがわしめる証拠はない。

したがって、被告としては、佐藤が代理権を有しているかについて名義人である原告会社に確認すべきであったのに、これを怠った過失があるものといわざるを得ない。

四  消滅時効

本件については、損害賠償請求権の消滅時効の起算点についても争いがあるところ、仮に、原告美智子が、平成五年一一月二六日の段階で佐藤による定期預金の解約等の事実について認識していたとしても、そのことをもって直ちに被告が加害者であるとの認識を有していたということはできないし、また、右の段階で原告美智子において被告が不法行為を行ったことを認識していたと認めるに足りる証拠もない。

そうすると、本件請求について消滅時効が成立しているとの被告の主張は、理由がない。

五  原告らの損害

前記二及び三で説示したところによれば、被告は、前記二10の預金担保貸付及び同11の当座預金口座の開設により原告らが被った損害について賠償すべき義務を免れない。

ところで、前記前提となる事実4、証拠(証人池ヶ谷、原告美智子)及び弁論の全趣旨を総合すると、他に特段の事情について主張、立証が存在しない本件においては、原告会社は本件取引13の預金担保取引により四〇〇万円の損害を被ったものと推認される。

また、前記前提となる事実2(一)(2) によれば、佐藤は、平成四年八月二六日、同月一九日に原告美智子普通預金口座二から払い戻した一〇〇〇万円のうち五〇〇万円を本件当座預金口座に入金し、同年九月一〇日に四五万円、同月二二日に五〇万〇七二一円、同年一〇月二日に合計五〇万〇七二一円を右当座預金口座からそれぞれ払い戻したというのであるから、他に特段の事情について主張、立証が存在しない本件においては、原告美智子は、本件当座預金口座の開設により一四五万一四四二円の損害を被ったものと推認される。

六  過失相殺

そこで進んで、過失相殺の点について検討するに、以上説示したところによれば、原告美智子は、佐藤による預金取崩ないし預金担保による貸出しを受けるなどしてこれを費消した事実を見抜くことができなかった上、原告らの印鑑を佐藤に預けるなどした結果、本件の損害を被ったものであり、その過失は少なくないというべきであるが、他方、永田会計事務所に事務処理を委託するに至ったいきさつ及びその後の経緯は前記一で説示したとおりであるところ、佐藤はその永田会計事務所に勤務して税務、経理等に明るい人物であって、鈴木學が死亡するまで原告らの財産管理をしていなかった原告美智子が佐藤を信用したことについては、やむを得なかった面もないではない。

このことに、前記被告の過失の態様を考え併せると、原告らの過失割合は三割とするのが相当である。

七  小括

以上によれば、被告は、原告会社に対して四〇〇万円×〇・七=二八〇万円及び弁護士費用三〇万円の合計三一〇万円の損害を賠償すべき責任があり、原告美智子に対して一四五万一四四二円×〇・七≒一〇一万六〇〇九円及び弁護士費用一〇万円の合計一一一万六〇〇九円の損害を賠償すべき責任がある。

なお、原告美智子の請求のうち、二五三万六〇五四円の支払を求める部分については、原告美智子がこれに対応する請求原因事実に関する主張を撤回していることから、理由がないことが明らかである。

第四結論

よって、原告らの請求は、原告会社が被告に対して三一〇万円、原告美智子に対して一一一万六〇〇九円及びこれらに対するいずれも平成六年一〇月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員の各支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 金井康雄 裁判官 藤田広美 裁判官大森直哉は差し支えのため署名押印することができない。裁判長裁判官 金井康雄)

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